結婚を機に働き方を変えて、配偶者の扶養に入ることを検討している人もいるでしょう。この記事では、専門家の監修の下、配偶者の扶養に入るにあたっての条件や健康保険や年金などの手続き方法を解説。結婚後の手続きをスムーズに行うために、配偶者が会社員の場合・自営業者の場合それぞれに必要な条件や書類、届け出時期などをわかりやすく説明していきます。

結婚すると同居・別居を問わず同じ家計を共有する夫婦として扶養制度を活用できるようになります。扶養制度には社会保険上の扶養と税法上の扶養2種類があります。まず、それぞれの概要を確認しましょう。
社会保険上の扶養とは、健康保険や年金などの社会保険制度において、扶養される家族が保険料を払わずに保険の対象になれる仕組みです。
ただし、自営業者やフリーランスなどで国民健康保険・国民年金に加入している配偶者の場合、各保険料の負担はそれぞれに発生します。
<健康保険の場合>
| 対象となる家族 | 被扶養者=配偶者(夫・妻。内縁関係含む)、子ども、親など |
|---|---|
| 扶養に入る条件 |
・扶養者が会社員または公務員であること ・被扶養者の年収が130万円未満であること(※1) ・被扶養者の年収が106万円(月8万8000円)以上の場合、条件によっては勤務先の健康保険への加入義務が発生する ・主として扶養者に生計を維持されていること |
| メリット |
・被扶養者は保険料を払わなくても健康保険に加入できる ・病院での自己負担は原則3割 |
| デメリット |
・被扶養者の収入に上限がある ・働き方の自由度が下がる |
(※1)60歳以上や障がい者の場合は180万円未満。大学生世代(19歳以上23歳未満)の子どもについては、150万円未満
<年金の場合>
| 対象となる家族 | 被扶養者=夫・妻(内縁関係含む)のみ |
|---|---|
| 扶養に入る条件 |
・扶養者=配偶者が会社員または公務員の第2号被保険者であること ・被扶養者の年収が130万円未満であること(※1) ・被扶養者の年収が106万円(月8万8000円)以上の場合、条件によっては勤務先の厚生年金への加入義務が発生する ・扶養者の年齢が20歳以上60歳未満であること ・主として扶養者に生計を維持されていること |
| メリット | ・被扶養者が個人的に年金保険料を払わなくても保険料納付済み期間として将来の年金額に反映される |
| デメリット |
・被扶養者に収入の上限がある ・働き方の自由度が下がる ・将来受け取る年金額が少なくなる可能性がある |
(※1)60歳以上や障がい者の場合は180万円未満
社会保険上で扶養に入れるかどうかは、「今の状況」の見込みで判定されます。月収の目安から年収130万円未満となる見込みなのであれば配偶者の扶養に入れるケースが多いでしょう。
税法上の扶養とは、扶養する納税者の所得から扶養控除や配偶者控除を差し引く制度です。課税対象となる所得額が下がるため、納税者の税負担が軽減されます。配偶者に対しては、「配偶者控除」あるいは「配偶者特別控除」といった所得控除が適用されます。
| 対象となる家族 | 配偶者控除(民法上の婚姻関係がある夫・妻) |
|---|---|
| 扶養に入る条件 |
[配偶者控除(控除額原則38万円)の場合] ・扶養される配偶者の合計所得金額が58万円以下(給与収入の場合は123万円以下)であること ・納税者である配偶者の合計所得金額が1000万円以下であること ・納税者と生計を一にしていること [配偶者特別控除(控除額 原則3万~38万円)の場合] ・扶養される配偶者の合計所得金額58万円超133万円以下(給与収入の場合123万円超201万6000円未満)であること ・納税者である配偶者の合計所得金額が1000万円以下であること ・納税者と生計を一にしていること |
| メリット |
・所得控除が適用され、配偶者の納税額が安くなる ・配偶者の給与収入が年収160万円以下の場合、所得税がかからない |
| デメリット |
・控除を受けるには年収に上限がある ・働き方の自由度が下がる |
税法上で扶養に入れるかどうかは、年末調整や確定申告で判定され、1年間の収入金額によって、所得控除が適用されるかが決まります。なお、住民税については異なる取り扱いになっているので注意が必要です。
配偶者の扶養に入るためには、年収が一定額を超えないように収入を抑えなければならないという制約が生まれます。働きたい気持ちがあっても、勤務時間や仕事内容に制限がかかってしまいキャリアの面で選択肢が狭まることもあるでしょう。
社会保険料や所得税の支払いが発生しても、手取り収入が増えれば世帯収入も増えていきます。また、自身で厚生年金保険に加入する方が、将来受け取る年金額を増やすことができます。
配偶者の扶養に入るかどうかは、「どのような働き方を望んでいる?」「家族で叶えたいライフプランに必要な世帯収入は?」といった長期的な視点で考えたいですね。

配偶者の扶養から外れて自身に社会保険料や税金の負担が発生する年収のラインを「年収の壁」と表現することがあります。年収の壁には「税金に関わる壁」「社会保険に関わる壁」「配偶者手当に関わる壁」の3つに分けることができます。
ここでは、「社会保険に関わる壁」について解説します。なお、社会保険上の扶養に関しては、一時的な収入である退職にあたって受け取る退職金や失業給付金は、一般的には入る際の年収には含まれませんが、健康保険組合によって判断基準が異なるため、事前に確認しましょう。
勤務先の規模や働き方によっては、月額8万8000円(年間約106万円)を超えると勤務先の社会保険への加入対象となり、健康保険・厚生年金保険の保険料の支払いをすることになります。ただし、保険料は会社と折半した上で給与から引かれるため、国民健康保険などに自分で加入するよりも安くなることもありますが、保険料分手取りが減ることになります。
「106万円の壁」の社会保険の加入義務が発生するのは、下記の5つの対象条件を全て満たす場合のみです。条件を1つでも満たさない場合は、加入義務はありません。
[社会保険の加入義務が発生する対象条件]
なお、2025(令和7)年の年金制度改正法により、所定内賃金が月額8万8000円以上(年収約106万円)とする賃金要件については、2025(令和7)年6月から3年以内に撤廃、従業員51名以上の企業を対象とする企業規模要件については、段階的に縮小・撤廃されることとなります。
被扶養者として健康保険や年金の保険料を払わずに済むのは、年収130万円未満まで。年収130万円を超えると、配偶者の社会保険の扶養から外れ、自身で国民健康保険と国民年金保険に加入し、それぞれの保険料を支払う義務が発生します。
扶養する納税者の所得から扶養控除や配偶者控除を差し引く税法上の扶養にも「年収の壁」が存在し、これを「税金に関わる壁」と言います。
「160万円の壁」は、所得税の支払いが発生する年収160万円を指しています。2025(令和7)年の税制改正前の境界線となる金額は103万円だったため、以前は「103万円の壁」と呼ばれていました。
ちなみに、自治体によって金額は多少異なりますが、住民税が発生する年収の境界「110万円の壁(以前は「100万円の壁」)」と表現されることがあります。

健康保険・年金の手続きは配偶者の勤務先が進めてくれます。提出するタイミングは、扶養家族となる事由の発生日から原則5日以内、とタイトなので要注意。速やかに書類を取り寄せ、必要項目を記載の上で提出しましょう。住民票の写しや所得証明書は前もって準備しておくのがおすすめです。
| 提出先 | 配偶者の勤務先 |
|---|---|
| 提出するタイミング | 事由発生日(婚姻届の提出日、退職日など)から原則5日以内に、社会保険の扶養に入るための手続きをする |
| 必要な書類(※2) |
・健康保険被扶養者(異動)届(※3) ・住民票(コピー不可、マイナンバーが記載されているもの) ・婚姻届受理証明書もしくは戸籍謄(抄)本など ・所得証明書もしくは確定申告書(写し)など所得を証明するもの ・退職証明書や退職日が記載された源泉徴収票、社会保険資格喪失(離脱)証明書の写しなど退職が確認できるもの ・退職した場合は、雇用保険受給資格者証 ・働いている場合は直近3カ月間の給与明細書(写し) ・扶養家族認定調書 ・国民年金第3号被保険者関係届(※3) ・配偶者の年金手帳のコピー(基礎年金番号がわかるページ)もしくは基礎年金番号通知書の写しなど |
| 手続き完了後は? |
・健康保険は、申請から1~2週間程度で健康保険証が会社経由または直接自宅に届く ・国民年金は、第3号被保険者資格を取得した証明として、後日「国民年金第3号被保険者資格該当通知書」が自宅に届く |
【FAQ】新しい健康保険証が届くまでどうしたらいいの?
健康保険組合の窓口で申請すると、「健康保険被保険者資格証明書」を発行してもらえ、健康保険証が届く前でも3割負担で医療機関を受診できます。早ければ当日、事情により数日かかることはありますが、急ぎの際は配偶者の勤務先に相談しましょう。
ただし、すぐに医療機関を受診する必要がある場合のみ発行されるため、「念のため」に発行することはできません。また、健康保険証が交付されたら返却手続きが必要です。
「健康保険被保険者資格証明書」が発行できない場合は、いったんは全額自己負担で払い健康保険証が発行された後に「療養費支給申請書」を提出して返金手続きをすることになります。
配偶者控除または配偶者特別控除を申告する際は、年末調整時に該当する申告書に必要事項を記載して勤務先に提出します。
| 提出先 | 給与所得者(配偶者)の勤務先 |
|---|---|
| 提出するタイミング | 控除を受ける年の年末調整 |
| 必要な書類 | 「給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 特定親族特別控除申告書 及び所得金額調整控除申告書」(※3) |
| 手続き完了後は? | 配偶者の所得金額から条件に沿った控除額が差し引かれ、過不足の精算がされる |
(※3)配偶者の勤務先からもらって記入する書類

国民健康保険や国民年金には扶養という概念がありません。配偶者が自営業者で、自身が退職などにより会社の健康保険・年金から抜けた場合は、国民健康保険・国民年金への加入手続きをする必要があります。
国民健康保険に加入する手続きをしなければ、病気やけが、妊娠して医療機関を受診するときに、医療費が原則自己負担になってしまいます。また、加入の手続きが遅れた場合、さかのぼって保険料を支払わなければならない点など、注意が必要です。
[国民健康保険]
| 提出先 |
自治体によっては、オンライン申請(スマート申請)サイトから加入申請が可能。マイナポータルからの申請はできない ※住所地を管轄する市区町村役場の窓口でも申請可能 |
|---|---|
| 提出するタイミング | 事由発生日資格喪失日(退職日の翌日など)から原則14日以内 |
| 必要な書類(※4) |
・国民健康保険被保険者資格取得届(※5) ・健康保険資格喪失証明書、退職証明書、雇用保険被保険者離職票などいずれか1点 ・マイナンバーカード(通知カードまたはマイナンバーが記載された住民票の写しでも可) ・印鑑 ・本人確認書類(運転免許証、パスポートなど) └マイナンバーカードがあれば不要 |
| 手続き完了後は? |
・健康保険証は郵送で後日交付 窓口申請の場合、当日現地で発行される自治体もある ・保険料の納付方法:納付書払い、口座振替 |
[国民年金]
| 提出先 |
マイナポータルから申請が可能 ※住所地を管轄する市区町村役場の窓口でも申請可能 |
|---|---|
| 提出するタイミング | 事由発生日資格喪失日(退職日の翌日など)から原則14日以内 |
| 必要な書類(※4) |
・国民年金被保険者関係届書(申出書〕(※5) ・年金手帳もしくは基礎年金番号通知書など基礎年金番号がわかるもの。またはマイナンバーカード(通知カードまたはマイナンバーが記載された住民票の写しでも可) ・印鑑 ・本人確認書類(運転免許証、パスポートなど) └マイナンバーカードがあれば不要 |
| 手続き完了後は? |
・1~2カ月後に国民年金機構から納付書が送付されるので、加入月分から保険料を納付する ・保険料の納付方法:納付書払い、口座振替、クレジットカード |
【FAQ】新しい健康保険証が届くまでどうしたらいいの?
国民健康保険証も保険証が交付される前に医療機関を受診する場合、役所の窓口で申請すると、有効期限付きの「資格証明書」を発行してもらえます。
国民健康保険加入の手続き前に医療機関にかかった場合は、いったん医療費を全額自己負担して、国民健康保険加入の手続き後、医療機関から返金が不可能な場合は、申請をすることで保険給付相当額を「療養費」として支給されます。
自営業者やフリーランスの配偶者控除・配偶者特別控除は、配偶者が確定申告の際に申告書類で申請します。確定申告の期間は、例年2月16日~3月15日ごろです。
| 提出先 | 住所地を管轄する税務署 |
|---|---|
| 提出するタイミング | 控除を受けたい年の確定申告(例年2月16日~3月15日ごろ) |
| 必要な書類 | 確定申告書第一表の配偶者(特別)控除欄に控除額を記入する |
| 手続き完了後は? | 配偶者の所得金額から条件に沿った控除額が差し引かれる |

結婚しても働き方を変えるわけでなければ、確定申告の必要はありません。しかし、次のようなケースに該当する場合は自分で確定申告をすることで、多く払っていた税金が還付金として戻ってくる可能性があります。ふたりの結婚生活を充実させるためにも、忘れずに手続きを行いましょう。
[確定申告が必要なケース]
・退職や転職で配偶者の扶養に入る人
・退職して年内に再就職しなかった人
・年内に再就職したが会社の年末調整に間に合わなかった人
・住宅ローンを組んで家を購入した人
・医療費が年間10万円を超えた人
[確定申告のやり方]
| 提出先 | 住所地を管轄する税務署 |
|---|---|
| 提出するタイミング | 控除を受けたい年の確定申告(翌年1月~ ※期限は5年間) |
| 必要な書類 |
・確定申告書 ・源泉徴収票 ・退職金の源泉徴収票 ・各種控除証明書 (社会保険料、生命保険料、住宅ローン、医療費など) |
| 手続き完了後は? | 退職金を除いた所得から控除を差し引いて計算した税額よりも、すでに源泉徴収されている税金の方が多い場合は、差額が払い戻される |

結婚の前後は、式の準備や新生活のスタートなどで何かと出費が重なる時期。だからこそ、扶養に入るタイミングも慎重に考えたいですね。結婚を機に働き方を見直す際は、家計・キャリア・ライフプランのバランスを考えながら、ふたりにとって最良と思える選択を目指しましょう!
また、扶養に入るための手続きには期限が決まっている点にも注意が必要です。いざ扶養に入ることに決めた後に慌てることがないように、早めに必要書類の準備や提出先の確認を行うことが大切です。
取材・文/池島由希子 監修/丸山晴美(節約アドバイザー・ファイナンシャルプランナー)、宮澤博(税理士/宮澤博税理士事務所)、若山大輔(行政書士/行政書士法人アインクラッド代表社員)
※掲載されている情報は2025年10月時点のものです。
※保険や税制、各種制度に関して将来改正・変更される場合もあります。手続き・届け出の方法も随時変わる可能性や、自治体により異なる場合があります。
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