「事実婚」ってどんなもの?選択する前に知っておきたい4つの注意点
「事実婚」という選択をするカップルが増えてきた昨今。分からないこと、不安なことも多く、一歩が踏み出せないという方もいるのではないでしょうか。今回は、実際に事実婚を経験されていた弁護士の原口未緒さんに監修いただき、事実婚を選択するカップルに事前に知っておいてほしい注意点を解説していきます。事実婚カップルたちのリアルな声も紹介するので、ぜひ参考に。
「事実婚」とは?同棲との違いは?
正式な婚姻手続きは踏まずに、夫婦と同等の関係になること
“事実婚”とは役所に婚姻届を提出せず、夫婦として共同生活を送っている状態のことを指します。いわゆる同棲と異なるのは、お互いに婚姻の意志があり、周囲からも「夫婦である」と認められているかどうかという点。ふたりとも住民票が同じ住所にあり、生活費などの生計を共にしていることが、事実婚として周囲に認知される条件といえるでしょう。
夫婦別姓を選択するカップルのほか、同性同士のカップル、国際結婚をしたものの相手国の法律などの問題で婚姻が成立していないカップルなども事実婚と見なされます。
ここからは、事実婚を選択する上で知っておいた方がいい注意点について、先輩カップルたちの声を交えながら解説します。
【注意1】法的な結婚と同等の扱いを受けることが難しい場合がある
“法律婚”では当たり前に与えられる夫婦の権利が、事実婚だと配偶者と見なされず、認めてもらえない場合があります。例えば「手術の際の保証人になれずに困った」「生命保険の受取人として認められなかった」というようなケースもその一つ。さまざまな場面で制約が発生し、モヤモヤしている人も少なくありません。
ちなみに生命保険の加入や、住宅ローン申請時の収入合算などは各企業で対応が異なるので、事前に適用可能なところを探さなくてはならないのが実情です。
こんなとき、大変でした…
【入院同意書の保証人】
私が緊急搬送された際、彼が“保証人”としてなかなか認めてもらえず、入院同意書の提出に手間取った経験が。賃貸借契約書の入居者欄や郵便物など、同居人であることの証明が求められました。(もちづきさん)
【病院の面会】
彼が入院することになり、病院に駆け付けたのですが、家族と認められず面会できませんでした。とても不安でした。(きみさん)
【国際結婚の配偶者ビザ】
彼は外国人。事実婚だったので配偶者ビザが取得できず、生活のしにくさを感じることがありました。(KFGさん)
企業などの判断によって変わることがあるので注意!
事実婚を決めたカップルがまず気になるのは社会保障のこと。勤務先の企業の判断にもよりますが、社会保険の扶養については特に問題なくは入れるケースが多いようです。そのほか住宅ローンのペアローン申請、生命保険の受取人になれるかどうかは企業の判断によるところが大きく、法律婚のカップルよりはハードルが高めです。
それよりも目立つのが入院・手術時のトラブル。弁護士の原口未緒さんによれば、「病院での入院同意書、手術同意書、集中治療室への入室は、基本的に法的な親族のみに限られます。面会謝絶の状況だと、まず会わせてくれない病院が多いでしょう」とのことでした。
【注意2】相続権や年金分割など、配偶者の権利に制約がある場合がある
「事実婚だと法的なメリットが受けられないんでしょ」と思っている人がいるかもしれませんが、意外とそうでもなさそうなことが分かっています。例えば年金の受け取りについては厚生年金保険法によって“法律上の夫婦と同様の権利”が与えられているので、専業主婦(主夫)の場合は、パートナーの被扶養者(第3号被保険者)になることも可能です。ただし、相続権など配偶者の権利として認められないものもあるようなので注意が必要です。
今後を考えると不安です…
【相続権がない】
まだ先のことではあるけれど、お互いに長い間生活を共にしてきたパートナーなら、相続権はあってしかるべしだと思う。(グランヴェールさん)
【財産を残せないのがつらい】
パートナーのために財産を残せないかもしれない。さらに万が一の際、残された側が住居を失う恐れがあるし、高齢になると賃貸契約をするのにも苦労しそうで不安。(Y.Nさん)
万が一に備え、「名義は半分ずつ」にしておくと安心
弁護士の原口さんいわく、「事実婚の場合、相続権はまったくありません」とのこと。さらに「配偶者としての権利に制約を受けるものとしては年金。法律婚の夫婦が離婚する場合と違って、事実婚が婚姻関係を解消しても、国民年金の第3号被保険者でなければ、年金分割を受けることができません」。
このように事実婚カップルは法律婚と比べると不利な状況に置かれることが多いので、大きな財産や資産を購入・取得する際には、必ず名義は半分ずつにしておくことをおすすめします。
【注意3】社会の偏見や差別に直面したり、親族関係が複雑になることがある
中には事実婚について誤解をしている人も多く、周囲から「いい加減、けじめをつけて婚姻届を提出すれば?」と心ない声をかけられるケースもあるようです。特に身近な人からの余計なアドバイスには閉口してしまいますよね。さらに、親戚の集まりに呼んでもらえない状況に心を痛めている人たちも目立ちました。
正直、これがつらい…
【冠婚葬祭に呼んでもらえない】
パートナーの親戚の冠婚葬祭にお声がかからないことがあります。自分たちは夫婦のつもりですが、そう思ってもらえないことが寂しいです。(陽炎さん)
【名字が異なることへの偏見の目】
ご近所の方にふたりの名字が違うことを知られてしまいました。昔ながらの世間体を気にするタイプの人だったので、少し気まずい思いをしました。(ひまけんさん)
【相手の親族と会いづらい】
婚姻届を出しているわけではないので親族と会いづらく、みんなで集まる際に顔を出しても良いものかどうかいつも悩みます。(RRさん)
偏見をなくすには“ふたりの姿”を見てもらうのが一番
事実婚を選択する理由は人それぞれ。世の中の人はさまざまな捉え方をするけれど、今のふたりがベストだと思う選択を大切にしてくださいね。親や友人など、理解を得たいと思う人には、ふたりのことをちゃんと話しておけば大丈夫!
また、「自分自身も3年間事実婚を経験しましたが、同じ名字を名乗っていなかったためか、“嫁・婿・家に入る”という感覚はまったくありませんでした」と原口さん。事実婚だからこそ、複雑な親族関係を華麗にスルーできるというメリットもあるようです。
【注意4】子どもを持つ場合に、親権の問題が複雑になる
事実婚カップルが子どもを持ちたいと考えた時、ネックになるのが親権です。事実婚の場合、ふたりが生物学上の父母と分かっていても、ふたりともが親権を持つことはできません。
子どもは「非嫡出子」として母親の戸籍に記載されるため、養子縁組をしない限り親権は基本的に母親が持つことになります。子どもが物心つく頃には、周囲との違いに戸惑いや疑問を持たないようきちんと説明することが求められるため、子どもを考えるなら、事前にふたりで話し合いを重ねておきましょう。
今後の課題でもあります…
【子どもへの説明が難しい】
両親の名字が異なることや、なぜそのような選択をしたのか、子どもに理解してもらうことは難しいと感じています。(らりっくすさん)
【子どもの親権が片方にしかない】
自分自身が学生ということもあり、収入が多い彼女が親権者になっています。今後、何かもめ事が起こった時、親権のない自分が不利になるのではと不安です。(Dさん)
子どもの親権が、実生活に影響する場面はあまりない
「事実婚の場合、子どもの共同親権を持つことはできませんが、実生活上において、親権というものが影響することはほとんどありません。強いて言えば子どもが入院や手術をする際に、親権者ではなければ同意書にサインできないという程度です」と原口さん。扶養については、手続きさえすれば法律婚と変わらない対応をしてもらえるとのことでした。
<リアルな声を聞きました!>
事実婚、選んでどうだった?
考えることもいろいろあるけど…「やっぱり選んで良かった!」の声も多数
皆さん、さまざまな理由で事実婚を選択していますが、目立ったのは「個人の生活を大事にしたいと思ったから」「一般的な婚姻のルールに縛られず、自由に生きていきたい」という意見。中には「事実婚を解消したくなった時に面倒な離婚手続きをせずに済むし、戸籍にも記載されない」とドライな声もちらほらありましたが、多くのカップルは事実婚を選んで良かったと満足しているようです。
事実婚、選んでよかった!
個人の生活を尊重したかったのが事実婚を選んだ大きな理由。よりどころがお互いの心の中にしかないので、相手への誠実さや自分に対する正直さが問われると思っています。他人にどう思われるではなく、ふたりがどうしたいのかを常に考えています。(もちづきさん)
伝統的なルールに縛られたくなかったので事実婚を選びました。法的な手続きなどの負担がなく、自分たちのペースで自由な生活を楽しんでいます。事実婚がふたりには合っていると思います。(K.T.さん)
自分の名字に愛着があり、変えたくなかったのが一番の理由です。さらに結婚に伴う面倒な手続きがないのもいいところ!(NJさん)
お互いに離婚歴あり。事実婚だと結婚していた時のような束縛感がなく、お互いを尊重し合える感じがしています。(だいちさん)
From 編集部
「結婚式を挙げること」も事実婚の大事な証明に!
多くの事実婚カップルが自分たちの選択に納得し、幸せな結婚生活を送っています。ただし中にはデメリットもあり、その理由の1つが「婚姻関係を第三者に証明するのが難しい」という点。安心して新生活を始めるためにも、住民票に「夫(未届)」「妻(未届)」とふたりの関係を記載しておきましょう。さらに“結婚式の有無”が判断基準になることもあるので、ぜひ素敵な式を挙げてみてはいかがでしょう。
原口未緒さん 弁護士
未緒法律事務所の弁護士。自身も事実婚経験があり、現在は1児のシングルマザー。メディア出演も多数あり、スピリチュアルや心理学の学びを通じて、クライアントの心のケアにも取り組んでいる。
取材・文/南 慈子 イラスト/STOMACHACHE. 構成/紺矢里菜(編集部)
※記事内のコメントは2023年9月に、事実婚を経験したことのある男女110人が回答したマクロミル調査によるものです
※掲載されている情報は2023年11月時点のものです
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