ウエディングドレスの歴史~純白やベールの由来とは【桂由美さん監修】
現在の結婚式では定番となっている花嫁のウエディングドレス。当たり前のように着ているけれど、いつからウエディングドレスを着るようになったのか、気になったことはありませんか。ウエディングドレスの由来や純白の意味、そして日本にどのようにして広まっていったのか。今回は、日本にウエディングドレスを広めた第一人者でもある桂由美さんに監修をお願いし、ウエディングドレスの歴史についてご紹介します。
ウエディングドレスの歴史を教えてくれたのは
桂由美さん
1965年日本初のブライダルファッションデザイナーとして活動開始。日本のブライダルファッション界の第一人者であり、草分け的存在。美しいブライダルシーンの創造者としてパリやNYなど世界各国30都市以上でショーを行い、ウエディングに対する夢を届けることから「ブライダルの伝道師」ともわれ、2019年には「令和元年度 文化庁長官表彰」受賞。
ウエディングドレスの歴史について
ウエディングドレス=白ではない時代もあった
ウエディングドレスの起源は、遠くエジプトやギリシャの時代までさかのぼります。当時から花嫁衣裳には清楚な色が好まれていたようで白がほとんどでした。ローマ時代に入りキリスト教が普及するにつれて、教会で結婚式が行われるようになり、そこで王族や貴族の花嫁が着た婚礼用の衣裳がウエディングドレスの始まりといわれています。また、中世では喪服が白だったため、ウエディングドレスは白のほかに赤や緑などの色鮮やかなドレスが用いられるようになり、金や銀の刺しゅうを施したゴージャスなものでした。
なぜ、豪華なウエディングドレスが必要だったのか。それは、当時の婚礼衣裳の役割は、花嫁の実家の地位や財産を示すものだったため、見た目がわかりやすく華やかであることが重要とされていました。やがて、16世紀末には黒や暗い色のウエディングドレスが、1900年頃には黒のウエディングドレスに白いベールといったスタイルなど、白だけでなくさまざまな色のものが着られるようになりました。
再びウエディングドレスに白を使いだしたのは、スコットランド女王メアリー・スチュアート(1542~87)とフランソワ二世との大婚の時だといわれています。19世紀後半に入るともうウエディングドレスに白以外のものを使うことはほとんどなくなりました。
ウエディングドレスの純白の意味とは?
中世の世界において、白いドレスはとても貴重なものとされました。というのも、白い布の生産が一般的でなかったこと、またウエディングドレスは汚れたら洗濯をしなければならず、白を維持することはとても大変な作業でした。現在では、ウエディングドレスは結婚式や写真撮影のときのみ着用しますが、当時は一生の間に何度か着用することもあったそう。そこから、ヨーロッパとアメリカの中流階級にまで白いウエディングドレスが広まるまでには、さらに数十年かかったそうです。
白いウエディングドレスが一般に普及することになったきっかけは、1840年のヴィクトリア女王の婚礼衣裳が純白だったことからとわれています。しかしもう一つの理由として、それまで高価であった純白の生地の生産が普及し手頃な価格で手に入るようになったこともあり、庶民にとって憧れであった白いウエディングドレスの人気は、ヨーロッパ中に一気に広がりました。
「白」に込められた意味
ウエディングドレスの白色には「清純さ」「清楚さ」「無垢さ」といったイメージがあるといわれています。また、白色は何色にでも染まる色であることから、白いウエディングドレスを着ることで「あなた色に私は染まります」というメッセージや、「新しい生活へのスタート」を意味しているという説もあります。日本の白無垢に関しても「純粋」「邪気をはらう」といった意味があることから、ウエディングドレスと共通する部分もあるといえそうですね。
日本ではいつからウエディングドレスを着ていた?
日本で初めて純白のウエディングドレスが着られたのは、1873年に長崎で磯部於平という女性が中国人のベンテクという人と結婚した際だといわれています。ただ、当時の日本にはウエディングドレスはなく、おそらくシンガポールと貿易をしていた新郎が現地で調達したものと予想されています。その頃の日本では、西洋式の結婚式はごく限られた一部の人たちしかできないものだったため、一般的に普及することはありませんでした。
純白のウエデングドレスが一般的に広まったのは1970年から80年代にかけて。日本でウエディングドレスが大流行するきっかけとなったのは、1981年のチャールズ皇太子とダイアナ妃、ロイヤルファミリーのご結婚でした。
ウエディングドレスデザイナーが誕生。 和装ではなくドレスを選ぶ人も
ウエディングドレスが普及し始めた年代と同じ頃から、数多くのウエディングドレスデザイナーが誕生しますが、その先がけになったのは1964年にブライダルファッションデザイナーとして創作活動をスタートした桂由美さんでした。1965年に初めてブライダルファッションショーを開催し、ウエディングドレスを発売。花嫁衣裳のほとんどが和装だった時代に大きな衝撃を与えました。
また、桂由美さんは1986年に中国でもブライダルショーを開催。当時喪服が白であった中国においても一大センセーションを起こしました。中国・ベトナムなどのアジアの一部では、白は喪の色とされていましたが、西洋文化の流入やファッションの普及で次第に白のウエディングドレスは広がっていきました。
日本のウエディングドレスは時代とともに変化
1965年当初のウエディングドレスは、シンプルなAラインで肌の露出がほどんどないデザインが主流でした。
■1970~1980年代
1970年代になると、高度経済成長の流れに乗り、ウエディングドレスのシルエットも大きく華やかに。さらに、1986~1991年のバブル期は豪華な結婚式が行われていたことから、ウエディングドレスもハリのあるサテン生地やタフタ生地が人気を集めました。ダイアナ妃のウエディングドレスにも影響を受け、大きなパフスリーブや長いトレーンを使用したものが多くみられました。
■1990年代とバブル崩壊
バブル崩壊後は、結婚式も地味婚といわれる時代に。シンプルなデザインのウエディングドレスが流行し、胸元のデザインも大きく変化。オフショルダーなど襟ぐりの大きく開いたドレスが人気となりました。
■2000年代
さらに2000年代に入ると、欧米トレンド主流時代となり、セクシーなベアトップスタイルを選ぶ花嫁が増加。2010年代にはキャサリン妃ご成婚の影響もあり、シースルーの長袖やレース素材もブームとなりました。時代の移り変わりとともに、ウエディングドレスのトレンドも大きく変化を遂げているのです。
ベールやグローブ、トレーンが持つ意味とは?
ウエディングドレスだけでなく、ベールやグローブといったウエディング小物も花嫁に欠かせないアイテムですよね。実は、ベールやグローブ、トレーンにもそれぞれ意味があるってご存じですか?
ベールの意味で最も知られているものは魔よけとしての役割です。ベールの起源はウエディングドレスと同様に古代ギリシャ・ローマ時代までさかのぼり、邪悪なものから守るという意味合いがあるといわれています。また、ベールには顔を覆う、隠す意味合いがあることから、周りの目から身を隠して「貞操を守ってきた」証しともされているそうです。
グローブには、花嫁の「無垢」を表す役割があると考えられています。結婚前の無垢で汚れのない花嫁を、グローブを着けることで守るという意味があるのです。また、キリスト教では肌を露出しないことが正装とされていて、神聖な挙式の場においては「なるべく露出を避けること」がマナーとなっています。
トレーンは英語のTrainが由来となった言葉で、ウエディングドレスのスカートの後ろ裾を指します。中世のヨーロッパでは、トレーンが長くなるほど生地がたくさん必要となることから、トレーンが長いウエディングドレスは身分の高さを表していたともいわれています。
ライン別!ウエディングドレスの特徴
日本にウエディングドレスが広まって数十年。今ではさまざまなラインのウエディングドレスが登場し、花嫁の好みに合わせて選べるようになりました。それぞれどのような違いや魅力があるのでしょうか。
■Aライン
アルファベットのAのように上半身がコンパクトで、裾に向かってスカートが広がるシルエット。Aの横線を表現するために、胸から腰までの位置にベルトや切り替えが使われ、すっきりと見せてくれる効果があります。
■プリンセスライン
ぴったりとした上半身と、Aラインより膨らんだスカートを持つシルエット。ウエストの切り替えがなく、肩から裾にかけて入る縦のラインで上半身をコンパクトにまとめ、ウエストから裾に向かって広がりをもたせているのが特徴です。このシルエットをイギリスのエドワード7世の妃であるアレクサンドラが好んで着用したことが「プリンセスライン」の由来とされています。
■マーメイドライン
腰のあたりから膝までボディラインにフィットし、裾が人魚の尾ひれのように広がるシルエットが特徴。流れるような曲線が美しく、大人花嫁からも人気のウエディングドレスです。式当日で着るほか、今人気のフォトウエディングで選ぶ花嫁も多いよう。
■ベルライン
教会のベルのような、丸く広がったボリュームのあるシルエットが特徴。着るだけでお姫様気分を味わえる可愛らしいラインです。タイトな上半身とふわふわのスカートで、スタイルアップ効果もあり。
■スレンダーライン
近年のトレンドでもある、盛りすぎないナチュラルなスタイルを好む花嫁に人気なのがスレンダーライン。細身のラインですっきりとシンプルにまとまるため、動きの多い二次会やリゾートウエディングにもぴったり。
■エンパイアライン
ガーデンウエディングやレストランウエディングなど、少人数婚の増加に伴って人気を集めているエンパイアライン。胸の下に切り替えがあり、スカートがすとんと落ちるデザインが特徴。カジュアルな雰囲気によく合います。
From 編集部
ウエディングドレスの由来を知ると、ドレス選びがもっと楽しくなる!
今あるウエディングドレスは、古代の女性たちから始まった慣習が受け継がれたものであり、歴史を知るととても感慨深い気持ちになります。日本でこれだけ多くの種類が選べるのも、ウエディングドレスを広めてくれた人がいたからこそ。ウエディングドレスの由来や意味を知って、ぜひドレス選びに役立ててみてください。
構成・文/古閑真梨子 イラスト/湯浅 望 監修/桂 由美
※掲載されている情報と商品の取り扱いおよび価格は2022年9月時点のものです
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